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他分野の翻訳知識を利用して、活躍の幅を広げる!
「ビジネス系」の映像翻訳
そんなメリットを活用したいという企業のニーズに応える、「ビジネス系映像翻訳」の案件を請け負っている翻訳会社の方々と、実際に仕事を受けた修了生にお話をうかがいました。
専門知識に加え、こなれた日本語力も必要
トライベクトル株式会社 矢柳祐介さん:
当社で 受注するコンテンツには、製品のプロモーション映像や、CEOが企業理念について紹介している映像などが多いです。映像を使う目的も様々ですが、例えば、自社のホームページで視聴できるようにしたり、製品の展示会会場でスクリーンやモニターに投影し、訪れた人に見てもらったりといった用途があります。
外資系企業からの受注が多く、例えば海外の本社で作成されたプロモーション映像が100本あったとして、そのうちの10本を選んで日本でも紹介できるようにしたいといった依頼もあります。
ビジネスを目的とした映像ですので、翻訳は専門性のある言葉にも対応できる方に依頼しています。それに加えて、こなれた日本語を使いこなせることが重要です。出版翻訳の経験がある方はボキャブラリーが豊富で、多彩な日本語表現が得意な方が多いので助かります。
翻訳に際しては、エンタテイメント系の映像作品ほど細かいルールや制限を守ることは求めません。映像の目的は、「映像をきっかけに製品や企業理念などを知ってもらう」ことにあります。いかにクライアントの希望どおりのPRができるかどうか、それを重視しなければなりません。そのため、字数や尺にとらわれ過ぎず、かつ分かりやすい字幕やナレーションにするために、「原文を前から順番に訳しているか」「冗長になりがちな場面でもなるべく短くまとめているか」ということを心がけて訳文のチェックをするようにしています。
「クライアントがどういう目的で映像を使用するか」を把握する
ブレインウッズ株式会社 笹波和敏さん:
当社が 受注する案件には、製品・サービスのプロモーション映像、事業内容の紹介などが多いですが、中には、企業CEOが現地法人の社員に向けて行うスピーチを収録したメッセージビデオの翻訳といった「社内向け」のものや、海外における緊急医療の最新技術を教える講義の映像を、大学の講義で使用するため和訳するといったものもあります。
また、自社製品が紹介された海外のテレビ番組(ドキュメンタリー、バラエティなど)を訳して日本でも紹介したいというケースもあります。 エンタテイメント系の映像と違い、尺が短いものが多く、依頼を受けて2~3日後に納品ということも珍しくありません。
翻訳は、映像翻訳者か実務翻訳者に依頼します。映像翻訳者に頼む場合は、クライアントから渡された映像をそのまま回して、一から字幕やナレーションを作ってもらう事が多いですね。一方、実務翻訳者の場合は、映像翻訳のルールについての知識がなく、字幕制作ソフトも所有していないため、映像スクリプトの忠実な訳のみ依頼し、スポッティング作業や字数の調整などの部分は映像翻訳者にお任せすることもあります。
言語方向については英日・日英それぞれ5割程度というのが現状です。字幕と吹替については、コストが安く抑えられるという理由で、字幕の依頼が多いです。また、見本市や展示会などのブースでは、様々な制約もあるため、字幕を選ぶことがほとんどです。あとは、視聴者が仕事中にネットで映像を見ることを想定して、音を出さなくても内容が分かる字幕が好まれるということもあります。一方、医療・医薬分野では、吹替やナレーションも需要が高く、情報を漏れなく伝えたい、というニーズもあります。
こういった映像も、基本的にはエンタテイメント系の映像翻訳と同じルールで字幕やナレーションを作るので、映像翻訳の知識はあった方が良いと思います。ただ、大切なことは「クライアントがどういう目的で映像を使用するか」をよく把握し、ニーズに合わせた翻訳をすることです。
例えば、一般の方が見る映像の場合は、誰もが分かりやすい字幕を作ることや、情報が多い部分でもなるべく文字数を少なくすることなどに気を配る必要がありますが、B to Bで専門家が見る場合は、専門的な名称や用語もそのまま伝える必要がありますし、吹替の場合は同音異義語などにも注意しなければなりません。そのため、依頼を受けた時点で、訴求対象や映像によるコミュニケーションの目的を明確にするための打ち合せを行うことが必須となります。
それをふまえたうえで、映像翻訳のルールである文字数や行数の制限などを適用します。企業によっては、文字数が通常の映像翻訳の制限数より大幅に超えてしまうことになっても、正確に情報を伝えてほしいという要望もあります。内容をくまなく伝えたいか、それとも誰にでも分かりやすい字幕やナレーションで映像を見てもらうか、どちらを重視するかによって訳文の作り方も変わってきます。
字幕を入れる「場所」もポイント
株式会社ヒューマンサイエンス 望月祐紀さん:
当社ではIT系の動画を多く手がけています。たとえば、ソフトの導入事例などを紹介するアニメ動画などがありますが、キャラクターが台詞を話しながら説明するためエンタテイメントの要素が強く、翻訳には、見る人を惹き付けるストーリーに仕上げるセンスも求めます。また、PVやCMの映像を翻訳するためには、単なる翻訳ではなく、製品を理解しどれだけ魅力を伝えられるかといった、コピーライティングの能力も必要になります。
制作の流れですが、まず映像の原音を聞き起こして原文のスクリプトを作り、スポッティングを取ったものを翻訳者に映像と一緒に渡します。字幕やナレーションが納品されてきたら映像に乗せてクライアントに見てもらい、細かく調整して完成となります。
特にIT系の製品紹介ビデオなどの場合、URLなどの英文を文字情報として映像に乗せていることが多いので、文字数の制限よりも、むしろ「映像のどの場所に字幕を入れるか」に気を配ります。字幕で背景がつぶれ、大切な情報が見えなくなってしまってはいけませんので、映像も字幕もどちらも見やすいように工夫する必要があるのです。
「ビジネス系映像翻訳」の経験談
エンタテインメント映像の翻訳との違い
林真子さん:
私が過去に受注したものには、海外で提供されている学習コンテンツの一部として、指導者向けの映像の日本語版を制作するという仕事がありました。学習コンテンツサイト自体はすでにネット上で公開されていて、指導者向けに、サイトの使用例や理念を説明するものです。実際にサイトを利用している指導者のインタビューやプレゼン内容などもありました。ネットで公開されている英語の聞き取りデータを加工して、英語と日本語の対訳原稿をボイスオーバー用に作成するというものでした。
映像とスクリプトは既に公開されていたので、納期と公開形態(字幕にするかボイスオーバーにするか)が決定してから、翻訳を始めました。翻訳できたものから納品し、クライアントにチェックしていただいて、何度か修正のやり取りがありました。テロップの字幕用の翻訳をどうするかなどについても、クライアントと相談しながら進めました。
ドラマなどのエンタテインメント映像と違って、話者は話すことのプロでないこともあり、話している長さに合わせるのに少し手間がかかりました。プレゼンの映像では、映像からのヒントがないという点でも、エンタテインメント作品とはちょっと違って手ごわかったですね。
取材協力
トライベクトル株式会社 矢柳祐介さん
ブレインウッズ株式会社 笹波和敏さん
株式会社ヒューマンサイエンス 望月祐紀さん
林真子さん
フェロー・アカデミーの通学講座「アンゼ特別ゼミ」修了生。映像翻訳者として活躍中。