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テレワークの味方! クラウドサービスの話
私たちの生活にも身近になったクラウドサービスですが、どんな種類があって、どういう翻訳が必要になるのでしょうか。
クラウドサービスとは?
クラウドサービスとは、クラウドコンピューティングの概念に基づいて提供されるサービスです。クラウドコンピューティング自体の定義は、米国国立標準技術研究所(NIST)によるものが一般的で、独立行政法人情報処理推進機構による和訳がWebサイトで公開されています。
厳密な定義はさて置き、利用者側から見ると、さまざまなアプリケーションやデータ記憶域などを、ネットワークとWebブラウザなどの一般的なインタフェースを通じて、あらゆる場所とデバイスで利用できるサービスが、クラウドサービスです。さらに、クラウドサービスでは、一般にアプリケーションが動作するCPUや、データが保存される記憶装置といったリソースは複数のユーザーで共有され、その所在も特定できませんが、一方で、リソースを即座に拡張したり縮小したりすることが可能です。
モノ、カネ、情報を一元管理するERPシステム
サービスの形態には、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)の3つがあります。利用者は、SaaSではサービスプロバイダから提供されるアプリケーションを利用し、PaaSでは利用者側が開発したり購入したりしたアプリケーションをサービスプロバイダから提供されるインフラストラクチャ上で利用し、IaaSではサービスプロバイダから提供されるリソース上でオペレーティングシステムや記憶域をコントロールしながら任意のソフトウェアを導入して利用します。一般にクラウドサービスという場合には、SaaSを指す場合が多いようです。産業翻訳の対象となることが多い企業向けSaaSでは、従来から企業で使用されてきた様々なアプリケーションがクラウド上で提供されており、これを組み合わせることでヒト、モノ、カネ、情報を一元管理するいわゆるERP(Enterprise Resources Planning)システムを構築できるようになっています。
SaaSで提供されているアプリケーション
企業向けSaaSで提供されているアプリケーションは、人材管理、財務会計、購買、営業販売のように大きく分けることができます。人材管理アプリケーションには、職歴、キャリアプラン、異動、採用、教育、研修、人事考課など人事関係の管理を行うものと、勤怠、給与、福利厚生など労務関係の管理を行うものがあります。財務会計では、売掛管理、買掛管理、資産管理、経費精算、リスクおよびコンプライアンスの管理などを行うアプリケーションがあります。また、購買の分野では、購買依頼や見積り依頼の作成と管理、入札、納品、返品、請求書の処理および支払いの管理を行うアプリケーションが、営業販売では、Eコマース向けのプラットフォームのほか、価格設定、見積り、顧客の挙動分析(SNSを含む)、販促計画の作成と分析、売上目標の設定と管理、業績と報酬の管理、さらに顧客サポート(セルフサービス、カスタマーセンター、サービス作業員の管理)を行うアプリケーションなどがあります。
大手のソフトウェアベンダーは顧客をクラウドへと誘導する傾向にあります。ソフトウェアベンダーにとっては、標準化されたアプリケーションをクラウドで提供することにより、企業規模と業種を問わずサービスを売り込むことができるため、ソフトウェアの個別開発やカスタマイズなしに、効率的に顧客のすそ野を広げることができます。利用者から見ても、従量課金制であることから初期投資が少なく、容量を柔軟に拡大や縮小できるといったメリットがあります。ただし、総費用が安くなるとは限りません。また、各アプリケーションは、利用者ごとにカスタマイズすると、クラウドが持つメリットが損なわれるため、場合によっては利用者側の業務形態の方をアプリケーションに合わせて変える必要があります。このため、こうした業務の変更を、ベストプラクティスに準拠した業務改革として、そのためのコンサルティング業務を合わせて提供するベンダーもあります。なお、先に述べたように、クラウドサービスでは一般にリソースの所在が特定できませんが、国によっては国外への情報の持ち出しが制限される場合があるため、ベンダーによって様々な対応がなされているようです。
クラウドはWebサイトで情報を集めやすいジャンル
もともと私は技術者として会社に勤務していたのですが、その際に大型汎用機からパソコンにいたるまで、いろいろな道具を使って仕事をしており、仕事を通じてITに関する知識を得ることができました。とにかく楽をするにはどうすればよいかを考えて、目の前にあるソフトやハードの機能を徹底的に調べることが好きでした。目の前にある機能の限界がわかると、新しいトレンドにも敏感になれるようです。クラウドはまさにWebを基盤としたサービスですので、Webサイトで情報を集めやすいジャンルだと思います。また、経済系新聞社やIT系ベンダーのサイトに利用者登録をしておくと、無料セミナーやプロモーションイベントの案内が届きますので、私は積極的に参加するようにしています。これは、このジャンルで実際にどのような言葉がどのように使われているのかをつかんでおくために有効だと感じています。
フリーランスの翻訳者になってから、人事考課を行うクラウドアプリケーションの機能概説書を訳したことがあります。これは、ベンダー側が営業ツールとして利用することもあれば、利用者側である企業の担当者が導入時の検討に使用することもある資料です。企業における人事考課は、古典的には管理職が階層別に考課会議のような場に集まって行うことが一般的だったと思いますが、このアプリケーションでは、それを基本的にはすべてソフトウェア上で仮想的に行うような仕組みになっているという点が印象に残りました。また、このときは考課を行う側が英語ではmanager、考課を受ける側がemployeeとなっていたのですが、これをそのまま日本語にすると、両者の関係がどうしてもわかりにくくなってしまいます。ここでは人事考課のアプリケーションが対象ですので、思い切って考課者と被考課者とすると、全体がすっきり読めるという経験をしました。どのような文書でも、まず大きな目的と対象を頭に入れて翻訳していくことが大切だと思いました。
クラウドサービスで提供される個々のアプリケーション自体は、従来から企業で使われてきたものですが、クラウドという提供形態をとることで柔軟な組み合わせができるようになり、用途や利用する側の立場によって見え方が変わります。そのためマーケティング資料も、同じアプリケーションを全く違う視点で扱っていることがあるので、まず頭を整理してから取り掛からないと、迷路に入り込んだような状態になることがあります。言い換えれば、その整理がうまくできたときは、楽しく仕事ができます。
翻訳者になろうと思い立った時から、
会社勤めを辞めてフリーランスになることを目指した
私は油田やガス田の開発をする技術者としての会社勤務が長かったのですが、管理職になり、開発の現場を離れたことをきっかけに、あらためて自分の手を動かして何かを作り、それを自分自身で売って報酬を得るという仕事をしたいと思うようになったのです。石油開発という仕事柄、海外で仕事をすることが多く、英語の文書を常に扱っていたこと、そしてとにかく文字を並べたり、整えたりすることが好きだったので、それなら翻訳が向いているのではないかと思うようになりました。
こうして翻訳者になろうと思い立った時から、会社勤めを辞めてフリーランスになることを目指しました。海外赴任中でしたので、まずは翻訳関係の各種雑誌をまとめて買い込んで情報を収集し、どのような勉強をしなければいけないのか、どうすれば勉強できるのかを把握してから、フェロー・アカデミーの通信講座「翻訳基礎<ステップ18>」を受講しました。このとき、翻訳の基本を体系的に学ぶことができ、同時に少し曖昧になっていた文法をすっきりと再整理できたことが、その後非常に役立ちました。帰国後は地方に勤務しましたので、やはり通信講座で「実務翻訳<ベータ>」を受講しました。
その後は私の職歴からすれば、本当はエネルギー関係の翻訳を中心にしたかったのですが、需要がそれほど多くないようでしたので、それまで仕事をする上でツールとして親しんでいたITのジャンルを当面の対象として勉強することにしました。退職後に東京に移ってからは、通学講座で高橋聡先生の講座を受講し、先生から翻訳者ネットワーク「アメリア」のクラウン会員(IT・テクニカル)にも推薦していただいて、フリーランスとして仕事をする上で貴重な機会をいただくことになりました。また翻訳の仕事を得るうえで少しでも有利になるようTOEICのスコアアップをしたり、JTFのほんやく検定を受験したりしました。
その後、実際に仕事をする中で、いわゆる技術文書のほかにマーケティング文書の案件をかなりいただくようになったのですが、硬軟の加減がよくわからず、苦手意識を持つようになってしまったことから、短期集中講座「マーケティング翻訳」を受講することにしました。このとき、講師だったSDLジャパンの方から修了時に同社のトライアルに推薦いただき、具体的なお仕事に結びついています。現在も募集があれば、エネルギー分野でもトライアルを受けるようにしています。アメリアで公開しているプロフィールやJTFの個人会員一覧を見て、エネルギー関係のトライアルを打診してくださるクライアント様やエージェント様もおられます。
翻訳者を目指して学習中の方には、アメリアの定例トライアルに参加したり、JTFのほんやく検定問題集を利用したりすることもおすすめします。実際に自分で訳してみてから訳例を参考に自分で添削をしてみると、うまくいったところ、いかなかったところ、その原因や解決のコツなどがわかることが多いと思います。通学講座を受講できる場合は、他の人の訳例をたくさん見ることも有効です。機会に恵まれれば、勉強会などに参加して深く議論することも、いろいろな発見につながると思いますよ。
取材協力
井上望さん
技術者として約30年間、企業に勤務後、2015年以降はフリーランス翻訳者として活躍中。2013年からフェロー・アカデミーの通信講座「翻訳入門<ステップ18>」、「実務翻訳<ベータ>」、通学講座「IT・テクニカル」、「IT・テクニカルゼミ」などを受講。