WORKS
金融関連レポートの翻訳
翻訳サービスをはじめとした金融ソリューションを提供するエグゼトラスト株式会社の川田さんと、実際に金融関連のレポート翻訳を手がけている徳弘京子さんにお話をうかがいました。
証券会社や運用会社の関係者が読者となるレポート
その翻訳の特徴は「短納期」と「高い専門性」
■エグゼトラスト株式会社 川田さん
弊社で受注しているのは、金融の中でも証券関係のサーチレポートが多く、大半は和訳案件です。具体的には、証券会社や運用会社が発行するマクロ経済、債券、為替、株式の機関投資家向け調査、運用レポートです。また米国の著名投資週刊誌Barron’sの日本語版『バロンズ拾い読み』も弊社が制作しています。
金融関連レポートの翻訳の特徴は、納期が短いことと高い専門性だと思います。また、夜間や時間外、週末対応の案件が多いことも特徴といえます。レポートの内容はかなり専門的で、その読者は証券会社や運用会社のセールスマン、ファンドマネージャーです。したがって翻訳者は高度な金融知識を前提にした翻訳が求められます。その知識があったうえで、正確な英文解釈と日本語の表現力が必要となります。
金融関係のバックグラウンドをお持ちでない翻訳志望者からトライアル応募があった場合は、自分の金融知識のレベルを自覚して翻訳しているか、ということにポイントを置いて審査しています。専門知識の収集に役立つものとしては、日経新聞が大事です。これ以外では大手証券会社や系列研究所の刊行物は、記述が正確でフェアなので情報源としての信頼度が高いといえるでしょう。これらを眺めておけば、ネットに溢れる情報の真贋やレベルが判断できるようになります。
今後の金融翻訳の展望としては、従来どおりボリューム的には債券、マクロ経済関連が主力であろうと見ています。ただし株式市場が活況なので今後は株式関連の翻訳も増えるかもしれません。いずれにせよ原文の書き手や訳文の読者と同様、翻訳者にも常に知的好奇心を持ち、直近情勢への関心を欠かさずにいてほしいですね。
金融分野では数字が頻出、数字の重要度も高い
■徳弘京子さん
大学院を卒業してから、就職、結婚、そして子育ても始まり英語からずっと離れていましたが、金融翻訳を志望したのは、需要があり、自分が興味を持てる分野という理由でした。実際に勉強を始めてみると、金融分野の幅広さとそれぞれの専門性の高さに気が遠くなることが何度もありましたが、この分野が好きだからこそ続けることができたのだと思います。
翻訳の勉強は、まずフェロー・アカデミーの通信講座「実務翻訳<ベータ>」から始めましたが、翻訳調ではない自然な日本語に訳すうえでの基本を学べたので、英語から遠ざかっていた私にとってよいリハビリとなりました。
初仕事を得たのは、実務未経験可の翻訳者求人に応募し、初めてのトライアルで合格してからのことです。ただ初心者ということで、その翻訳会社の勧めもあり、まずはチェッカーの仕事から始めることになりました。トライアルは金融分野で受験しましたが、実際のお仕事ではビジネス全般の英文和訳案件のチェックをしながら、ときどき翻訳の案件をいただくという時期が2年くらい続きました。当時のチェックの経験は大変勉強になりました。さらにその後、金融分野の翻訳者求人に応募し、金融分野の英文和訳案件が徐々に増えてきている状況です。
金融関連のレポートで主に手がけているのは、銘柄レポートとマーケットレポートです。銘柄レポートは、決算発表等の資料をもとにアナリストが執筆する米国上場企業の株式投資情報で、約400ワードを1~2日で納品、発生頻度は月2~3件程度です。マーケットレポートは、銘柄レポート同様、投資家向けの投資情報ですが、テーマは特定の国や地域のマクロ経済、株式・コモディティ市場全般など、その回ごとにさまざまです。こちらは約1500~3000ワードを2~4日で納品。発生頻度は定まっていません。
銘柄レポートを訳す際は、必ず該当企業のホームページで四半期報告書やプレスリリース等を確認します。裏付けをとるという意味もありますが、その企業の業績や事業内容を調べないと正確に訳せないことも多いので、原文の分量は少ないもののリサーチは時間をかけて丁寧に行っています。マーケットレポートの場合も、直近の経済動向(金融政策の変更や経済指標の発表など)をもとに執筆されているため、関連する出来事について信頼できるニュースサイト等で情報を集めます。このほか、金融分野では数字が頻出するうえ、その重要度も高いので、数字のミスについては何度もチェックしています。
自分が実践した勉強法で金融翻訳に役立ったこととしては、金融経済関連の専門書を読む、日経新聞を読む、ロイターや投資情報会社のホームページで英日対訳のある記事・文書を読む、といったことが挙げられます。専門分野の学習以外では、やはり英語の読解力と日本語の表現力の向上が必須と考えています。翻訳者の方々のブログで紹介されていた、本多勝一『日本語の作文技術』、山岡洋一『翻訳とは何か―職業としての翻訳』などの書籍はとても役立ちました。質の良い日本語をたくさん読むだけではなく、日本語自体の勉強も表現力の向上に大変役立つと思います。また、英語については読解以外にも総合的な力をつける必要を感じ、英語のニュースを聞いたり、息抜きも兼ねてですが海外ドラマや洋画を観たりもしています。
私は北海道に住んでいるのですが、地方に住んでいると、翻訳者の勉強会や懇親会に直接参加できない、参考にしたい本があるとき大きな図書館が近くにないのでしぶしぶネットで購入しなければいけない、といった不便は感じます。ただ、実際の仕事のやりとりはネット環境さえあれば大きな支障はないと思いますし、SNSの普及で翻訳者の方と知り合えて役立つ情報をいただけるのはありがたいです。