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建設関連の翻訳

今回ご紹介するのは、不動産や建設事業に関連して必要となる文書の翻訳について。
賃貸・売買・入札・施工……などなど、身近なワードを想像するだけでもいくつもの書類がありそうですが、実際のところはどうなのでしょうか。
フリーランスの翻訳者で、このジャンルの翻訳に携わった経験をお持ちの藤原真帆子さんにお話をうかがいました。

海外での建設や海外取引先とのやりとりで発生する工事関連文書や契約文書、管理に関連する文書

不動産や建設関連で発生する翻訳案件には、大まかにいえば海外での建設や海外取引先とのやりとりで発生する工事関連文書や契約文書、管理に関連する文書といったものがあります。

具体的には以下のような文書があります。

■工事に関する文書
入札書、プロジェクト概要などの資料、工事請負契約書、仕様書、図面、施行計画書、測量、地質調査などの調査資料、規制当局への許認可に関する届け出
など

■不動産取引に関する文書
土地や建物等の売買契約書、賃貸借契約書、契約に関連する覚書や法的文書(記載事項等の公的証明書、法律意見書等;法人の場合、会社の定款や設立証明、取締役会の議事録や決定
書、規制当局への届け出など)、不動産鑑定書、エンジニアリングレポート、売主から買主へのプレゼンテーション資料(物件概要書、マーケットレポートなどを含む)
など

■管理に関する文書
施設・建物の管理契約書(業務委託契約書)、現場の安全管理手順や施設内の掲示、市場向けの宣伝に使用する資料
など

このなかで私が翻訳を受注したことのある文書は、土地売買契約書、賃貸借契約書、記載事項の公的証明、仕様書、設備管理契約書・安全管理手順、合弁プロジェクト関連文書です。
土地売買契約書は主に英日翻訳がメインで、日系企業(買主)と現地の個人の地主さん(売主)との間の土地の売買に関する契約書でした。契約書の他に、現地の行政から発行された記載事項の公的証明書、個人の本人確認書面なども付随していました。
賃貸借契約書も英日翻訳が多く、日系企業(貸主の共同事業者)が契約当事者である現地の貸主・借主と、現地で締結した契約内容を確認する目的だったようです。

仕様書は、設計基準仕様書でした。発注者、受託者とも日系企業で、海外案件に使用すると思われるもの、また発注者(海外企業)、受託者(日系企業)で英日・日英どちらも必要な案件もありました。安全管理手順は、海外にある施設内の安全管理に関する手順書で、日系企業の施設を現地で管理する施設従業員が使用するもののようでした。海外企業が日本に建設予定の施設に関する日本人従業員向けの管理業務手順書などもあり、こちらも英日と日英どちらもありました。合弁プロジェクト関連文書は、施設建設に関する日系企業と海外の委託先との質疑応答のやり取りや業務委託契約の英日翻訳でした。

英会話教室運営から不動産や建設に興味を持ち……

実は私にとって建設(建築)は、あまり身近ではありませんでした。大学の専攻は文系で、卒業後には英会話教室を運営する会社に就職しました。ここで新規教室を開拓する仕事をさせていただいたときに、物件を借りるテナント側の立場として不動産に関わる機会ができ、教室の内外装工事にも携わることがあり、不動産の業務に興味を持つようになりました。その後、外資の不動産会社に転職し、今度は物件のオーナーや管理者の立場で、より専門的な知識が身につきました。

特に最初はほとんど知識が無かったので、不動産取引を解説している専門書を何冊も読んだり、宅建の勉強をしたり、初心者向けの不動産投資セミナーなどにも積極的に参加しました。法律の改訂などがあれば、その都度セミナーなどに参加したり、国交省のwebサイトなどを確認したりしました。勉強と称して、きれいな写真のたくさん載っている建築雑誌やインテリア雑誌などを読んだり、英語の不動産サイトなども面白くてよく眺めたりしていました。社内に不動産や建築に詳しい先輩社員や同僚がいて、調べても分からないことは聞けば教えてもらえるというのはとても恵まれた環境だったと思います。また、本社が海外にある会社でしたので、外国人の上司や同僚に英語で説明する必要があったので、自然と必要な語句を覚えていったと思います。不動産や建設に使われる用語などについても、英語でどのように言うのかずいぶん学ぶことができました。

この当時、業務上で必要に応じて、翻訳にも携わるようになりました。業務で取り扱うものは不動産取引や施設などの管理に関する内容が多かったので、建設や工事に関する文書は扱う機会がそれほど多くなく、日本語の用語の意味を調べたり、詳しい方にお聞きしたりする必要がありました。ただ、この頃の経験から、文書がどのような場面で使われるのかをイメージしやすいということはあるかもしれません。翻訳者として独立した際、登録する翻訳会社にはそのような経験があることをお伝えしましたので、該当する案件がある場合はご依頼いただけているように思います。

建設関係の翻訳に携わるうえでは、ときには公共事業にかかわる大型案件や新しい技術に関する文書を目にすることもあり、少し大げさですが、時代の動きにほんの少しでも関わっている感じがしてとてもワクワクします。ただ、技術的な文書ですので、基本的な数字や単位の間違いなどがないように注意しています。また、工事の独特な表現や製品名などもよく出てくるのですが、調べてもクリアにならなかった部分は申し送りをして間違いがないか見ていただけるように気をつけています。詳しい方からすれば基本的な語句かもしれませんが、「バリ取り」「むくり」「山留め」といった言葉は初めて目にしました。それぞれ、「切断した部分のぎざぎざを取り除くこと」「梁などの上ぞり」「地下を掘るときに周囲の土が作業場所に流れ込まないように周囲の土を固める工事」という意味で、木工などモノづくりに詳しい方ならすぐ分かったかもしれませんね。

目指したのは、ライフステージに合わせた働き方

私が翻訳を仕事にしてみたいと思ったのは、大学卒業後に就職した会社を退職してからでした。その当時たまたま体を壊してしまい、少し休養して、好きだった英語をもっと仕事で使えるように勉強してみようと地元の翻訳・通訳の専門学校に通うことにしました。そこで翻訳や通訳を実際に仕事にしている講師の方々にお会いして、会社員という働き方以外にフリーランスの「翻訳者」という選択肢もあるのだな、と初めて考えるようになりました。クラスメイトに、子育てがひと段落した主婦の方や世代の違う方がいらっしゃったことも刺激になって、ライフステージに合わせた働き方ということにも興味を持つようになりました。ただ、その時点ですぐに翻訳ができるとも思えなかったので、外資の不動産会社に転職をして経験を積みました。8年ほど勤務して、年齢的にも一区切りのように感じたので、募集の出ていたトライアルをいくつか受けたところ仕事をいただけることになり、会社員としての勤務としばらく重複して翻訳の仕事をした後、思い切ってフリーランスとして仕事をすることにしました。翻訳がメインの仕事ではなかったとはいえ、やはり実際に業務で英語を使った経験というのは大きかったと思いますし、この経験がなければ翻訳が仕事になることもなかったと思います。

不動産会社に勤務していた時に、フェロー・アカデミーの講座を受講しました。日中は会社に勤務していましたので、決まった時間に学校に通うというのがなかなか難しかったため通信講座を選びました。当時は自分のペースで進められるということが優先事項だったため、とてもよかったです。実務翻訳の基本的なことをまとめて集中的に学べたので、例えば英語の契約書を確認するような会社の仕事にも、翻訳にもすぐに使えて大変役に立ちました。すごく基本的なことですが、記号や句読点の使い方など、今でもテキストをよく見直します。

通学講座でも学習しましたが、初めは通学講座でクラスメイトや講師と直接話せるほうが進めやすいのではないかと思います。翻訳学校以外に英会話クラスなどにも通いましたが、やはり自分とは違う分野を経験している人たちと会うと刺激になりますし、取り上げるトピックも多様で面白かったです。それに、ある分野の内容を知りたい時に情報交換できる人がいるというのはとても助けになります。また、機会があれば、やはりその言語を使う現場で実際に働くということが、実務翻訳をやる上では一番身になるのではないかと思います。文書の使われる背景などもイメージしやすくなるので、そのような機会をもつことをお勧めします。翻訳の学習とはまた別ですが、PCやファイルの扱い・編集などにも慣れている方が実際に作業する際に安心です。翻訳やチェックのお仕事を始めた時に、会社の業務でも使用しなかったような機能を使う必要があり、慣れるまである程度時間がかかりました。こういったことも実際に業務で経験しておくと対処しやすいかと思います。

フリーランス翻訳者としての現在は、9時から18時頃までを仕事の時間にしています。場合によっては夕食後も作業をすることがありますが、ある程度は自分でペースを決めることができるので、日中に翻訳や翻訳支援ツールのセミナーを入れたり、お仕事の内容に関連する講演やシンポジウムなどに参加したりすることもあります。案件が続くとどうしても引きこもりがちなので、できるだけアンテナをはって新しい情報をインプットしにいろいろな場所に出ていくようにしています。また、ビジネス文書、技術文書といった案件をいただくことが多いので、できるだけクライアント様の意図する内容であるよう、翻訳支援ツールで効率よく品質を管理したり、ペース配分などもよく考えて丁寧なミスの無い仕事ができるようにしていきたいと思っています。チェッカーとして登録している会社もありますので、文書の品質という観点などとても学ぶことが多く、こちらも継続して一歩ずつ経験を積んでいきたいと思っています。

取材協力

藤原真帆子さん
大学卒業後、英会話教室運営会社や外資系不動産会社での勤務を経て、フリーランス翻訳者として独立。2010年からフェロー・アカデミーの通信講座「翻訳入門<ステップ18>」、「実務翻訳<ベータ>」、「ベータ応用講座ビジネス文書」、「ベータ応用講座経済(現「経済・金融」などを受講。

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