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reco本リレー【20】吉澤康子さんのreco本
『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
吉澤康子さんのreco本
吉澤康子さんのプロフィール:
文芸翻訳家。エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』、アナベル・ピッチャー『ケチャップ・シンドローム』、スーザン・リンデル『もうひとりのタイピスト』、リンダ・グラント『本を殺してみたけれど』、アン・ペリー『偽証裁判』『護りと裏切り』、アリアナ・フランクリン『アーサー王の墓所の夢』、G・M・マリエット『ミステリ作家の嵐の一夜』など訳書多数。
この作品の読みどころ
フランスに住むユダヤ人であるフランシーヌは、1942年、もうすぐ9歳になるとき、母親ともどもドイツ軍に逮捕されてしまいます。その後、いくつもの強制収容所に次々と移送され、およそ3年間を過酷な状況のもとで暮らしました。1日、また1日と命をつないで。
近ごろの国際情勢には危ういものがあるとはいえ、わたしたちは平和であることが当たり前のように生きています。もちろん、戦争が悲惨であることは、だれでもわかっているでしょう。それに、ホロコーストに関する情報はたくさんありますから、想像を絶することが行なわれたのだという知識も持っているはずです。
それでも、ぜひこのノンフィクションを手に取り、ひとりの女の子の身に起こったことを知ってもらいたいと思うのです。小学生という子どもだからこそ、素直に、あからさまに、表現できたことのなかに浮かび上がってくる人間というものについて、認識を新たにするにちがいありません。
その命をつないだものは、親や友人や見知らぬ人など、手をさしのべてくれた多くの人の愛であり信念です。なんと素晴らしい贈りものであることかと、悲惨なできごとを書いた本であるのに、最後は胸が熱くなるはず。少女の心に寄り添った、柔らかな言葉を選びつつ綴られた訳文なので、小学生から大人まで幅広い方たちにお読みいただけます。
担当編集者からのコメント
本書には、大量虐殺を経験してなお、心は憎しみに染まらないと唱う著者の旅路が綴られています。河野万里子さんは、著者の高潔でまっすぐなまなざしを受けとめ、同時に細やかな訳注や、残された手紙、写真資料にあたり時代を表してくださいました。刊行に際し、パリ管弦楽団チェリストの佐藤光氏、パリで教鞭を執る高橋潤子教諭、ノンフィクション作家の柳田邦男氏から応援をいただきました。国境も時代も超えて、人間を信じる願いがこめられた1冊です。
岩崎書店 板谷ひさ子さん
翻訳者 河野万里子さんからのコメント
著者のフランシーヌさんは今年84歳(2017年現在)。いまも平和活動に力をつくされていますが、凛として美しい表情には少女時代の写真の面影も重なって、戦争がけっして遠い昔の話ではないと思い知らされます。けれど、そのむごさ、理不尽さとともに、本書には、そんなときでさえ失われなかった人の心の強さ、やさしさ、気高さや、人と人との絆の尊さも描かれていて、胸を打たれます。ぜひ大人の方々にも子どもの皆さんにも、読んでいただけましたら。