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reco本リレー【8】高山真由美さんのreco本
『12人の蒐集家/ティーショップ』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
高山真由美さんのreco本
高山真由美さんのプロフィール:
文芸翻訳家。フィクションの訳書にハンナ・ジェイミスン『ガール・セヴン』、リサ・バランタイン『その罪のゆくえ』、ジェニファー・ヒリアー『歪められた旋律』、リー・カーペンター『11日間』など。ノンフィクションの訳書にジェニファー・シニア『子育てのパラドックス――「親になること」は人生をどう変えるのか』、ポール・タフ『成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか』など。
この作品の読みどころ
なんの気なしに入った街角のケーキショップで、さて何を食べようとメニューをひらいたら、〈鉛色の避雷針〉〈よろけヴァイオリン〉〈惚れ睡蓮〉〈腐れアクロバット〉〈陽気な骸〉なんて名前が並んでいたら。さらには極秘レシピでつくられた特別なケーキを勧められ、その代価が「お客さまの過去の日々」だったら、あなたならどうしますか?
あるいは深夜の3時27分、突然電話が鳴り響き、見知らぬ電話の相手から、直前まで見ていた夢を売ってくれといわれたら。しかもその報酬が「この先何年も贅沢な暮らしができるほどの額」だったら?
あるいはPCに向かっていて、最後の1行を訳し終えた瞬間にモニターが暗転、何カ月もかかった仕事がすべて消えたうえ、“もう二度と何も訳さずに生きながらえるか、訳して死ぬか”どちらか一方を強引に迫られたら?(すみません、ちょっとつくりました……本のなかでは、迫られる人物は作家です)
あるいはとうとう死の床についたとき、あなたの死を譲ってくれ、その代わりに、あなたの人生最良の一日を永遠にくり返し生きられるようにしてあげよう、といわれたら? あるいは旅行中、列車の待ち時間に入ったティーショップで、メニューのなかに〈物語のお茶〉を見つけたら?
セルビア人作家ゾラン・ジヴコヴィッチによる、奇妙で不条理、それでいて軽やかな短篇の世界へようこそ。紫色にはご用心。これがお気に召しましたら、『ゾラン・ジフコビッチの不思議な物語』(黒田藩プレス)もオススメです。
ところで続刊の予定はないのでしょうか……。セルビア語から英語を介しての二重翻訳にはさまざまなご苦労がありましょうけれど、もっと読みたいなあ、と心待ちにしています。
担当編集者からのコメント
「魔術的」という言葉は実に使い勝手が良く、つい宣伝に入れてしまいがちですが、本書ほど自信を持って「魔術」と帯に書いた作品も他にないような気がします。どこからともなくやって来て、読者を煙に巻いてぱっと消え失せるという、この世に存在しない小説作法で紡がれる物語は、もはや魔術にしか喩えようがありません。一度読むと癖になってしまう“ジヴコヴィッチ・マジック”(訳者あとがきより)、次回の興業をお楽しみに。
東京創元社 古市怜子さん
翻訳者 山田順子さんからのコメント
原書はセルビア語。その英訳書からの邦訳ということで、最初はためらったが、一読驚嘆。奇抜な発想、意表を突くストーリー展開、オチがあるような、ないような結末。起承転結ではなく、起承転々。ぜひとも日本の読者にお届けしたくなった。軽やかな作品世界に、作者の決して軽くはないメッセージがこめられていて、ひんやりとした不安をかきたてられ、想像力を刺激される。次はどの作品を紹介しようか、楽しく迷っている。