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reco本リレー【1】田口俊樹さんのreco本
『もう過去はいらない』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
田口俊樹さんのreco本
田口俊樹さんのプロフィール:
文芸翻訳家。『獣たちの墓』『殺し屋ケラーの帰郷』『償いの報酬』『殺し屋 最後の仕事』(二見書房)、『神さまがぼやく夜』(ヴィレッジブックス)、『偽りの楽園』『暴露:スノーデンが私に託したファイル』(新潮社)、『アメリカン・スナイパー』『キャプテンの責務』『卵をめぐる祖父の戦争』(早川書房)、『暴行』『チャイルド44』(新潮社)、『エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実』(太田出版)、『風をつかまえた少年』(文藝春秋)など訳書多数。
この作品の読みどころ
『もう年はとれない』に次ぐバック・シャッツ・シリーズの第2作。88歳の伝説のメンフィス署殺人課元刑事と78歳の史上最強の大泥棒。その対決劇である。
88歳の元刑事は歩行器が手放せない。いったいどんな対決劇なんだ、と思われるかもしれないが、これが面白い面白い! とにもかくにも主人公の伝説の元刑事がカッコいいったらないのだ。皮肉屋でやたらと暴力的で、まあ、普通は嫌な爺でしかありえない。こういう爺さんが現実にまわりにいたら、たぶんこっそり蹴飛ばしたくなるだろう。それがお読みになればわかる。なんて愛おしい爺さんであることか!
現実にはありえないことだ。それが虚構の中では起こりうる。小説を読むひとつ大きな愉しみである。その愉しみが満喫できる。加えて、ワタシ的には啓蒙の書でもあった。アメリカにおけるユダヤ人問題に関することだ。私がただ無知だったんだろうが、さまよえるユダヤ人の悲哀がシャッツを通じてひしひしと伝わってきた。
さらに本格ものっぽい推理劇も愉しめる。サーヴィス満点のこれぞエンタテインメント。切れのいい訳文も読みどころ。誰にでもお勧めできる傑作である。
担当編集者からのコメント
シリーズ1作目『もう年はとれない』からさらに深みの増した本作は、幸いご好評をいただき、翻訳者さんの投票で決定される「翻訳ミステリー大賞」の最終候補にも2年連続で選出していただきました。
シリーズは現在のところ4作目まで刊行が決定しています。3作目で、主人公バック・シャッツは何歳になっているのか? 編集者としても、一読者としても、早くシリーズの続刊を読みたいと思っています。
東京創元社 桑野崇さん
翻訳者 野口百合子さんからのコメント
口が悪くてへそ曲がりの暴力老人。どうやら初期の認知症、歩行器必須、IT音痴。だが、どこまでも食えない不屈の刑事魂の持ち主。高齢者大国日本のみなさん、こんな主人公の推理を楽しみ、痛烈なユーモアに笑い、老いの悲しみにしんみりし、タフな嫌味ぶりに明日への活力をもらいませんか?
そして訳者の苦闘のあともご覧になって、笑ってやってくださいね。たとえば、どうでもいいイヤなやつの名前が、原文でPumfrey(正)からPumpleroy→Pimplepiss→Pissface と、同じ場面でどんどん(主人公の頭の中で)変わっていくんです。
自分の頓智力のなさに絶望しながら、なんとか読者に笑ってもらえないかと訳者が四苦八苦した35章を読めば、優越感にひたれること請合いです。