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reco本リレー【15】鈴木恵さんのreco本
『菜食主義者』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
鈴木恵さんのreco本
鈴木恵さんのプロフィール:
文芸翻訳家。ジョー・ネスボ『その雪と血を』、スミス・ヘンダースン『われらの独立を記念し』、マイケル・クラニッシュ『トランプ』(共訳)、ロバート・L・スティーヴンソン『宝島』、ブルース・スプリングスティーン『ボーン・トゥ・ラン』(共訳)、ギャビン ライアル『深夜プラス1』、ユッシ・エーズラ・オールスン『アルファベット・ハウス』、マット・ヘイグ『今日から地球人』、アリエル・S.・ウィンター『自堕落な凶器』、アーバン・ウェイト『訣別のトリガー』など訳書多数。
この作品の読みどころ
韓国小説にはまりかけている。翻訳がどれも素晴らしいのにまず感心して、目にとまるものをいくつか読んでいるうちに、少しまとめて読んでみようかなという気になってきたのである。というわけでその韓国小説から、2016年のブッカー賞国際賞を受賞したハン・ガンの『菜食主義者』(2011)を。
平凡な主婦がある日、突然、肉を食べなくなる。生理的に受けつけなくなるのである。そして傍から見ると、少しずつ精神に異常をきたしていく。その様子が、彼女の夫、義兄、姉の三人の視点からそれぞれ描かれる。3つの中篇からなる連作小説といえる。
最初はこの妻がただの不気味な女にしか思えないのだが、読んでいるうちにだんだん、そうではないことが判ってくる。彼女はどこかとんでもないところへ、もう引き返せないところへ行ってしまっていて、でもそこには何か、傍からはうかがい知れない確かな必然があるのである。
その必然がなんなのか、それは明確には判らないものの、物語はどんどんヘンなほうへ、想像もできないような深みへ、ぴんと張りつめたまま静かに沈んでいく。今にも切れそうなこの危うい緊張感のせいで、読みおえたあとに思わず、詰めていた息をぷはぁっと吐き出したくなる。
著者は「あとがき」にこう書いている。「慰めや情け容赦もなく、引き裂かれたまま最後まで、目を見開いて底まで降りていきたかった」読者も黙ってひたすらその下降に、目を見開いたままついていくしかない。
※『少年が来る』(井出俊作 訳・CUON)もすごいよ。