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reco本リレー【6】島村浩子さんのreco本
『カラフルなぼくら』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
島村浩子さんのreco本
島村浩子さんのプロフィール:
文芸翻訳家。津田塾大学学芸学部英文学科卒。スーザン・ブロックマン『薔薇のウェディング』、ロビン・スローン『ペナンブラ氏の24時間書店』、クリスタ・デイヴィス『ジューンブライドはてんてこまい』『感謝祭は邪魔だらけ』、クリスティン・フィーハン 『夜霧は愛とともに』『愛がきこえる夜』、ケビン・ポールセン『アイスマン』、マーガレット・デュマス『上手に人を殺すには』、スーザン ・ブロックマン『ホット・ターゲット』など訳書多数。
この作品の読みどころ
最近は同性パートナーシップに関するニュースなどもあって、LGBTという言葉を目にする機会が格段に増えた。本書はLGBTのT、トランスジェンダーの若者たちに取材をしたノンフィクションだ。
翻訳の仕事をしていると、自分とは性的指向や性自認が異なる人について訳す機会がある。必要な場合はできるかぎり気持ちを寄り添わせて訳したい。そのためにも性の多様性についてもっと知りたいという思いがあり、本書を手に取った。
タイトルに「カラフル」とあるが、予想以上にカラフルで驚きに満ちた内容だった。ジェンダー・クイア、インターセックス、ジェンダー・ニュートラル、FTM――初めて聞くという言葉はないだろうか? トランスジェンダーと言っても人それぞれで、とうていひとくくりにはできない。
本書でとりわけ強く心に残っているのはカミングアウトにまつわるエピソードだ。涙する親を前に、自分が“だめ人間”のように感じられたと回想する大学生。最初は子供にひどい言葉を投げつけてしまい、(いまは良好な関係にあるにもかかわらず)「一生後悔するでしょう」と語る母親。そのいっぽう、カミングアウトする前から親や友人が察してくれていて、すんなり受けいれてもらえたというケースもあった。
著者あとがきのつぎの言葉に大きくうなずいた。「人は相手が自分とまったく異質の人であっても、相手を詳しく知りさえすれば、さほど警戒しなくてすむはずである」
6人のカラフルな口調が読みやすく、自然に訳されている本書は、“詳しく知る”うえで大きな助けになる本だと思う。
担当編集者からのコメント
本書の原題は “BEYOND MAGENTA”ですが、邦題を考えるときにずーっと頭にあったのは「カラフル」「グラデーション」という言葉でした。登場する6人の若者たちの性自認の有りようだけを見ても実にさまざまです。だから、まずは「男女」という区別から自由になって、人は「カラフル」なんだという地点からスタートできるといいな、とこのタイトルをつけました。若者が自分のセクシュアリティに目覚め始めた初期の葛藤を丁寧に掬いあげた愛情あふれるノンフィクションです。
ポプラ社 斉藤尚美さん
翻訳者 浅尾敦則さんからのコメント
翻訳をやる際に意外と気を遣うのが一人称代名詞の選択です。日本語では語り手の一人称が「おれ」「ぼく」「わたし」で与える印象がガラッと変わってくるので、トランスジェンダーの一人称には悩みました。本書刊行後、日本では一人称に「自分」を使うトランスジェンダーが多いとの指摘を受けましたが、これが性的に中立な一人称代名詞になりうるかは意見が分かれるところでしょう。ちなみに、英語では三人称のhe/sheが問題になることが多く、最近は性的に中立な三人称の単数代名詞を使用するケースも増えているようです。