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reco本リレー【26】村上利佳さんのreco本
『列車はこの闇をぬけて』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
村上利佳さんのreco本
村上利佳さんのプロフィール:
文芸翻訳者。クリステン・L. デプケン『3Dトイ・ストーリーのおはなし』、マリオン・ポール『マイ・ヴィンテージ・ハロウィン』(共訳)、シンシア・スティアール『カーズ2 しかけをめくって、ひっぱってあそぼう!』、マリアトゥ カマラ/スーザン マクリーランド『両手を奪われても―シエラレオネの少女マリアトゥ』、バーバラ・テイラー『サファリ動物探検』など訳書多数。
この作品の読みどころ
トランプ大統領の就任をきっかけに、日本でもにわかにクローズアップされたメキシコから米国への不法移民問題。中南米で「北部トライアングル」と呼ばれるグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルからは、残忍なギャングの支配と極度の貧困から逃れるため、毎月、大人だけでなくたくさんの子どもたちが、誘拐、人身売買、レイプおよび殺人の被害者になる危険を冒してまで米国に渡ろうとしているのが現状だ。
10代の子どもがたったひとり、しかも無一文と言える状態で、「死の列車」と呼ばれる貨物コンテナに飛び乗って4千キロも旅をするなんて、日本ではにわかには信じられないはずだ。だからこそ、ぜひこの本を読んでほしい。作者ディルク・ラインハルトは実際にメキシコに赴き、不法移民の子どもたちに取材を重ねてこの作品を書いたという。つまり、実話に基づくフィクションであり、主人公の5人の少年少女のなかには、名も知れぬ実在の子どもたちの姿が息づいているのだ。
子どもたちはなにが待ち受けるかもわからないまま旅に出る。作者はそんな子どもたちに降りかかるあらゆることを、忠実に描きだしている。思わず目をそらしたくなるような、神に祈りたくなるようなシーンもあるが、同時に、救いの手を差し伸べてくれる人たちの存在も描かれている。
今この瞬間にも、地球の裏側では、藪で息をひそめ、飛び乗る列車がやってくるのを待っている多くの子どもたちがいることだろう。その子たちに思いを馳せるくらいしかできない自分の無力さを痛感するとともに、せめてひとりでも多くの人たちにその子たちの存在を知らしめたいと、この本を紹介する。
担当編集者からのコメント
著者のラインハルトが、フランクフルトブックフェアの会場で、読者の子どもたちに囲まれ、一人ひとりの質問に真剣に、長時間かけて答えている姿を見たことがあります。中南米での取材でも、こうして真摯に子どもたちに向き合ってきたのだろう、と思いました。そのようにして得た重い「事実」を、息つく間もなく読んでしまう物語の形にし得たところが、作家としての優れた腕だと思います。
徳間書店 上村令さん
翻訳者 天沼春樹さんからのコメント
これが現実の世界で起こっていることなのか。自分は本作に出会うまで中南米の難民の実態にあまりにも疎かったと思わざるをえなかった。おそらく、著者自身も決して安全な取材ではなかったはずだ。それでも著者をつき動かしていたものは、事実や現実から決して眼をそらすまいという作家魂ではなかったか。行間からその熱い思いが伝わってきたような気がしている。