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reco本リレー【4】熊谷千寿さんのreco本
『地底世界 サブテラニアン』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
熊谷千寿さんのreco本
熊谷千寿さんのプロフィール:
1968年宮城県生れ。東京外国語大学卒業。フレドリック・T・オルソン『人類暗号』、チャールズ・カミング『ケンブリッジ・シックス』、トム・ウッド『ファイナル・ターゲット』、マット・リン『北極の白魔』、キース・トムスン『コードネームを忘れた男』、イアン・ランキン『偽りの果実 警部補マルコム・フォックス』、マーク・オーウェン、ケヴィン・マウラー『アメリカ最強の特殊戦闘部隊が「国家の敵」を倒すまで』など訳書多数。
この作品の読みどころ
“シグマ・フォース”シリーズなどで大人気のアメリカ人冒険小説家ジェームズ・ロリンズの処女作です。
実は、十数年前にもこの作品を“おすすめ”したことがあります。1998年だったと思いますが、リーディングのお仕事をいただき、原書のゲラを読んだところ、みごとにツボりました。地底ものは売れないなんてジンクス(事実?)は、駆け出しでしたから気になりませんでした。大傑作だ! とレジュメで無邪気に猛プッシュしたのを覚えています。
舞台は、南極エレバス山の地下の巨大な洞窟網。そこで派手な冒険が展開していきます。《インディー・ジョーンズ》とか《ハムナプトラ》がお好きなら、きっと楽しめることでしょう。主人公のひとりが能天気なオーストラリア人だからか、絶望的な状況でもすかしたユーモアが冴え渡ります。地底なのに爽快なドライブ感は、翻訳版でもばっちりです。
自分の血を信じろ――そういう意味のせりふが繰り返し出てきます。その言葉に何度か勇気づけられました。仕事がなかったころ、そして、故郷の気仙沼に戻ると決断するときにも。ただ、去年、公民館で市民健康診断を受けたところ、ぼくの血は脂っこくてとても信じられないようなので、最近は少し疑りながら運動もしています。そういう感じのお話です。
担当編集者からのコメント
作者のロリンズは大人気の〈シグマフォース〉シリーズ以前に6つの単独作品を発表しています。これはその第1作目。デビュー作とはいえ、さすがの出来栄えです。 ちなみに単独作としては“Altar of Eden”(2012)が目下のところ最新作。こちらを既訳の『アイス・ハント』『アマゾニア』に続き遠藤宏昭さんが鋭意翻訳中です。〈シグマフォース〉を経由したロリンズ氏がどう駒を進めているのか? 乞うご期待ください。
扶桑社 生田敦さん
翻訳者 遠藤宏昭さんからのコメント
最初に訳したのが、『アイスハント』(2003)、二番目が『アマゾニア』(2002)で、そのあと、ロリンズ名義の第一作であるこの『地底世界 サブテラニアン』(1999)と、たまたま出版年を遡って翻訳する恰好になったが、そこかしこに後の作品との共通点が垣間見えて、ロリンズの楽屋を覗いているような楽しい気分を味わわせてもらった。
既存の生物学的知見に大胆な想像力を加味して、奇妙奇天烈ながら妙にリアリティのある生き物を創り出す技はすでに完成されているようだし、物語の展開も後の作品に劣らずスピード感に溢れている。視点人物を頻繁に切り替え、各々の心理を描くことによって作品に人間ドラマとしての厚みを加えることにも、後の作品同様に成功している。処女作にしてこの作品は、驚くほど完成度が高い。
一方、『アイス・ハント』、『アマゾニア』との目立った違いは、これらの作品で大活躍した「普通の」動物が、『サブテラニアン』には出てこないことだろう。『アイス・ハント』の狼犬、ベイン、『アマゾニア』のジャガー、トートー。いずれも動物好きにとっては「泣かせる」存在で、猫四匹と同居する訳者はこの二頭の大ファンだったから、それが少し残念だった。もっとも、これは作品の瑕疵ではない。無い物ねだりのワガママである。