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reco本リレー【13】河野万里子さんのreco本
『プリズン・ブック・クラブ ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
河野万里子さんのreco本
河野万里子さんのプロフィール:
文芸翻訳家。サン・テグジュペリ『星の王子さま』、ルイス・セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』、シャーリー・パレントー『青い目の人形物語』、ジーン・E. ペンジウォル『ちいさなあなたがねむる夜』、ファニー・ブリット『ジェーンとキツネとわたし』、エミリー・ヴァスト『あなたをまつあいだに』、ドナ・ウィリアムズ『毎日が天国――自閉症だったわたしへ』、エーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』など訳書多数。
この作品の読みどころ
「囚人たちの読書会――彼らが夢中になっているのはもはや麻薬ではなく書物なのだ」。
この帯文に「え?!」と惹きつけられて、しゃれたイラストの赤い表紙をめくると……「読みかけの本を残して出所してはいけない。戻って続きを読みたくなるからだ。――刑務所の言い伝え」。
思わずあははと笑ってしまったが、なにしろ本物の刑務所での話だ。相手は薬物売買や銀行強盗、発砲事件や殺人の罪などを負った者ばかり。そのうえ著者には、路上強盗に襲われたトラウマがあるという。それでも「刑務所読書会支援の会」の代表を務める友人の熱心な誘いと、ジャーナリストとしての自身の興味、そして判事だった亡き父の言葉「人の善を信じれば、相手は必ず応えてくれるものだよ」に背中を押されるようにして、著者は、体じゅうにタトゥーのある男たちと読書を通して向きあい、知りあうようになっていく。そして何人かとはすこしずつ心を触れあわせ、出所後の人生にむけて言葉をかわしあうまでになる。
「読書会大使」を決めたり著者を招いたりなど、会を成功させる一般的なヒントもあちこちにあり、巻末のブックリストも充実している。なにより、ともに本を読むことの豊かさや、はぐくまれていく信頼関係が、カナダの美しい自然描写に彩られながら、あたたかく、ときにせつなく迫ってくる。すばらしい映画を観たあとのような余韻に包まれる1冊だ。
担当編集者からのコメント
「これ面白かったです! 次はこの本に出てきた『6人の容疑者』を読んでみたい」。弊社のスタッフが、本が出来てから数日で一気に読んで、そんな言葉をかけてくれました。読書会を通じて変化していく囚人たちの様子に引きこまれるいっぽうで、本書は、登場する本を読んでみたい、誰かと本について話したいと思わせてくれる一冊です。ぜひ本書から”次なる読書”、そして新たな”読書会の開催”につながればと願っています。
紀伊國屋書店 大井由紀子さん
翻訳者 向井和美さんからのコメント
こわもての囚人たちが、ときに殴り合いになりそうな雰囲気のなか、本をめぐって議論を交わす。訳していてなにより大事にしたかったのは、まさに今ここで、受刑者たちが話し合っているという臨場感だ。だから、読者から「自分も参加しているような気分になった。この読書会が永遠に続いてほしい」という感想をもらったときは嬉しかった。わたし自身も30年続く読書会に参加しているのだが、課題本の最初のほうで挫折しそうになると、本書の登場人物ドレッドのこの言葉を思い出すようにしている。「本は追いかけてきちゃくれない。こちらから追いかけないと」