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reco本リレー【9】小林さゆりさんのreco本
『アメリカン・ブラッド』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
小林さゆりさんのreco本
小林さゆりさんのプロフィール:
文芸翻訳家。ジョアンナ・リンジー『この恋がおわるまでは』、ヴァネッサ・テイト『「不思議の国のアリス」の家』、クリスティーナ・ブルック『約束のワルツをあなたと』、イェンス・ラピドゥス『イージーマネー』(共訳)、ジェーン・フェザー『美しき海賊と風にのって』『いとしの侯爵に愛の詩を』『反逆の戦士にさらわれて』、ルーシー・モンロー『おさえきれない想い』、ブルース・スプリングスティーン自伝『ボーン・トゥ・ラン』(共訳)、『世界シネマ大事典』(共訳)など訳書多数。
この作品の読みどころ
ニューヨーク市警の元刑事で、犯罪組織に潜入する捜査官だったマーシャルは、証人保護プログラムの対象となり、ニューメキシコ州でひっそりと暮らしていた。ある夜、ダイナーでたまたま目にしたニュース番組で失踪事件が報道され、居ても立っても居られなくなる。行方不明者は赤の他人だったが、過去に出会ったある女を思い起こさせるからだった。独自に調査を始め、裏社会に再び接近するうちに、彼の身辺は血なまぐさい様相を呈していく――。
主人公マーシャルの過去に何があったのか、次々に登場する悪党どもの利害関係はどうなっているのか、なりゆきで関わりを深める法の執行者側はマーシャルにどうからんでいくのか。やや複雑なプロットながら、読者の興味を惹きつけて最後まで突っ走るスピード感がじつに心地よい。章ごとに視点が切り替わり、さまざまな角度から物語を追っていくので、急展開にうっかり振り落とされそうになっても大丈夫。そのまま流れに身をゆだねれば、ああ、あれはそういうことだったか、とじきにわかるという塩梅だ(じつを言えば、ちょっと迷子にもなったけれど……)。
ストーリー展開だけではなく人物造形が魅力的で、〈ダラスの男〉と呼ばれる殺し屋がつぶやくひと言にとりわけ味わいがある。“――サスペンスは人間の生きがい、そして死にがいだ”とか、“地獄が嫉妬するだろう”とか。訳者あとがきによれば、本作はシリーズものの第1作。続編が楽しみだ。
翻訳者 黒原敏行さんからのコメント
この作品では難問にぶつかってしまいました。ネタバレになるので詳しい説明はできませんが、最後にあることが明らかになります。当然、その時点まで読者に悟られてはいけないことです。ですが、それ以前のある箇所(これがわりと長い)を普通に訳すと、ある程度までネタが割れてしまうのです。これでは意味不明でしょうが、小説をお読みになれば、少なくとも翻訳を勉強している方なら、おわかりになるはずです。困りはてて、担当編集者の山口晶さんに相談したら、「少しお時間をください」といって、2日後にうまい手をすっと提案してくださいました(カッコいい!)。山口さん、その節はどうもありがとうございました。