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reco本リレー【17】濱野大道さんのreco本
『探検家、40歳の事情』
「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。
バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!
濱野大道さんのreco本
濱野大道さんのプロフィール:
翻訳家。リチャード・ロイド・パリー『黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件の真実』、ジェイムズ・リーバンクス『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』、フィオナ・ヒル/クリフォード・G・ガディ『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』(共訳)、リッチ・カールガード/マイケル・S・マローン『超チーム力 会社が変わる シリコンバレー式組織の科学』、アダーナン・フィン『駅伝マン 日本を走ったイギリス人』、グレン・グリーンウォルド『暴露 スノーデンが私に託したファイル』(共訳) など訳書多数。
この作品の読みどころ
去年ふと手に取った『空白の五マイル』で魅せられて以来、探検家・角幡唯介さんの作品を追っている。今回紹介する最新作には、40歳になった角幡さんが日々の生活や冒険について軽快に、かつ音楽のように美しい語彙と文章で綴った珠玉のエッセイが並ぶ。
セイウチに殺されかけたり、狩った獣の生肉を食べたり……ときに生々しく、ときにスリルいっぱいに語られる冒険譚の数々を読んでいると、ハンマーで殴られたように頭がくらくらしてくる。自分の小さな世界観や常識を崩壊させてくれる、そんな感覚がなんとも心地いい。誰にも真似できない角幡さんの生き方は、同年代のぼくにとってはまぶしくてたまらない。ただ、ぼくは高所と虫が苦手なので、実際に冒険に出かけたいとは思わないけれど……。
30歳で大手新聞社を辞めて探検家となり、名だたる賞を次々と受賞して人気ノンフィクション作家となって不惑を迎えた角幡さんの言葉は、フリーランスという生き方を選んだ誰しもが抱える不安と興奮を代弁してくれる。「後悔する人生とは決断できなかった人生であり、後悔しない人生とは決断できた人生のことだ」「フリーランスというのは社会で異形の者でありたいと求めつづけること」などとさらりと言ってのけるのがうらやましい。これからフリーランスという仕事を目指す人には、ぜひ読んでほしい1冊。
ちなみに、この本にもたびたび登場する女性歌手・峠恵子さんによる奇書『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』も併せて読むことを強くお勧めします!
担当編集者からのコメント
「探検家」と聞いて、皆さんはどんな人物を思い浮かべるだろう。自分には到底理解できないような行為を生業とする、遠い存在の人――、私は最初そう思って角幡唯介さんに近づいた。初めて聞く探検話の数々は、私の好奇心を満たしてくれるものばかり。しかしそのうち、うっかりやさんなところや奥様に頭が上がらないなどとても親しみの持てる一面が見えてくる。このエッセイ集は、まさに探検という非日常の世界と、東京での小市民的な日常の狭間で描かれたものである。
文藝春秋 藤森三奈さん