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吹き替え翻訳とは?
字幕翻訳との違いや翻訳フローについて解説

映画やテレビの吹き替え翻訳は、字幕翻訳とは異なる工程で行われていることをご存じですか?

吹き替え翻訳は、主にセリフのような音声をターゲット言語に吹き替えるための翻訳です。
字幕翻訳とは配慮すべき点が異なるため、それぞれの特徴について知っておく必要があります。

本記事では吹き替え翻訳と字幕翻訳の違いと共に、吹き替え作品がどのように制作されていくか詳しく解説します。
さらに、求められるスキルや実績の立て方など、未経験から吹き替え翻訳家を目指す方にもわかりやすくまとめました。

 

吹き替え翻訳とは?字幕翻訳との違い

海外の映像作品を吹き替えや字幕で楽しむ方は多いのではないでしょうか。
近年、スマホやタブレットなど手軽に楽しめる動画コンテンツが増えたため、翻訳需要も高まっています。

翻訳は主に吹き替え翻訳か字幕翻訳のいずれかの方法で行われますが、翻訳する方法が異なります。
ここからは吹き替え翻訳の特徴や、字幕翻訳との違いについて解説します。

吹き替え翻訳は音声(セリフ)の翻訳

吹き替え翻訳とは、ドラマやドキュメンタリー、アニメなど、映像作品の音声を翻訳し、異なる言語の音声に差し替える手法です。
作品には音声の元となるスクリプト(台本)が用意されていますので、翻訳する際は台本と映像を見ながら行います。

自然なセリフに吹き替えられていれば、視聴者も負担なく作品に集中できるでしょう。

吹き替え翻訳では、自然なしゃべり言葉であること、登場人物の口の動きや表情と、セリフがあっていることが必須です。
登場人物のキャラクターにあった口調、言葉使いであることも大切です。
視聴者はセリフを耳で聞くため、他の同音異義語と間違えてしまう可能性がある場合は他の言葉に置き換えるといった配慮も必要です。

吹き替え翻訳では、セリフだけでなくト書きや音声も記載された「台本」の形で納品します。
台本は吹替収録でそのまま使用されますので、ディレクター、声優、音声など収録関係者にとって分かりやすい台本に仕上げなければなりません。

吹き替え翻訳と字幕翻訳の違い

吹き替え翻訳と字幕翻訳には、目的や作成方法、視聴者体験において下記のような違いがあります。

吹き替え翻訳は音声を翻訳する手法です。
視聴者の視覚的負担が少なく、小さな子どもから高齢者の方にも親しみやすく幅広いシーンで需要があります。

一方、字幕翻訳は、作品の雰囲気をそのままに動画を視聴したい方から支持されています。

吹き替え翻訳と字幕翻訳は、音声と文字という異なる手段で表現しますが、どちらも作品の雰囲気を損なわないような翻訳が求められます。

吹き替え翻訳の需要

近年、吹き替え翻訳の需要は国内外で大きく伸びています。
理由の一つに、NetflixやDisney+など動画配信サービスの多様化とともに、字幕に慣れていない子供やあまり文字を読まない層もターゲットとなったことが挙げられるでしょう。

教育用コンテンツや企業向けの研修動画、観光案内映像、ニュースなど、エンターテイメント業界以外でも吹き替え翻訳は活用されています。
たとえば、製品マニュアルやサービス紹介動画は、視聴者が内容に集中しやすいよう吹き替え翻訳が採用されるケースが多いです。

コンテンツの多様化はさらに進むとされているため、吹き替え翻訳の需要は高まっていくでしょう。

吹き替え翻訳家に求められるスキル

吹き替え翻訳は、作品に忠実であることと同時に、視聴者にとって違和感のないセリフに訳すスキルが求められます。
そのためには、高い語学力を身に着け、吹き替え翻訳のルールを熟知しておく必要があります。

ここで、吹き替え翻訳家に求められる主なスキルを5つ紹介します。

吹き替え翻訳のルールの知識

吹き替え翻訳には、字幕翻訳などほかの翻訳手法にはないさまざまなルールが存在します。
違和感のない吹き替え翻訳を行うためには、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • セリフのタイミングを合わせる(尺あわせ)
  • 登場人物と口の動きを合わせる(リップシンク)
  • 周囲の話し声(ガヤ)やため息など、聞き取れる音はすべて台本に反映させる

自然な吹き替え翻訳にするためには、大前提として登場人物と動きとセリフが一致していなければなりません。

吹き替え翻訳をする際は、登場人物の動きに合わせてセリフのタイミングと長さを調整しながら、口の動きにも合わせる工夫が必要です。
たとえば「NO」というセリフの場合、同じ母音の「やめろ」など訳して、最後の口の形に合わせると自然な吹き替えになるでしょう。

また、音声を吹き替える声優には作品の原音が聞こえていないケースが多いため、セリフを言うタイミングを図れるよう、周囲の会話や効果音、テレビやラジオの音、ペットの鳴き声などなどもすべて台本に載せます。

作品の文化的背景への理解

吹き替えに限らず翻訳全般に言えることですが、制作国独特の慣用表現や比喩を視聴者にわかりやすい言葉に翻訳するには、文化的な背景がないか調べると良いでしょう。
たとえば”Elvis has left the building”。直訳は「エルビスはこの建物を去った」ですが、これはかつてエルヴィス・プレスリーのコンサートで、終演後も帰宅したがらない観客に向けられたアナウンスが発端と言われています。「もう終わり」「諦めなって」など、さまざまな表現が考えられますが、直訳しておかしいと思った時は言葉の背景を調べるとぴったりなセリフが浮かびやすくなるでしょう。

リップシンクに合わせる語彙力

母音や口の動きがセリフとズレてしまうと、視聴者は作品に集中できず違和感を覚えます。
登場人物の口の動き(リップシンク)にセリフを合わせるには、豊富な語彙力が求められます。
ほかにも、性格や表情にあった言葉選びなど、吹き替え翻訳では作品の雰囲気、演出にあった最適な言葉を探っていく必要があります。
普段から、さまざまな年齢、職業、特徴の人が話す言葉に耳を傾け、セリフ表現を増やしておきましょう。
古い時代や非日常を舞台とした作品を翻訳することもありますので、さまざまな題材のテレビドラマを観てセリフの研究をすることもおすすめです。

コミュニケーション力

吹き替え版の制作には、制作全般をコーディネートするプロジェクト管理者、制作ディレクター、声優、音響スタッフ、そしてクライアントとなる配給会社などさまざまな立場の人が関わります。翻訳者が直接やりとりするのは、主にプロジェクト管理者や制作ディレクターです。

吹き替え版の制作はタイトなスケジュールで組まれていることが珍しくありません。スタジオ手配や宣伝の都合により、スケジュール変更が入ることもあります。
翻訳者は制作チームの一員として、関係者と無駄なく迅速なコミュニケーションを取ること、また変更にも柔軟に対応することが求められます。
これはどの仕事でも必要なビジネススキルですが、吹き替え翻訳に関わりたいなら特に意識しておくと良いでしょう。

柔軟なコミュニケーション力とチームワークは、吹き替え作品の質を高めるためにも重要なスキルといえるでしょう。

高い語学力

語学力の高さはすべての翻訳家に求められるスキルの一つですが、もあり、吹き替え翻訳家として活躍するためにも、語学力の高さは必要です。言語の微妙なニュアンスの違いや文化的背景を正確に理解し、適切な言葉選びが求められます。

普段から多くの吹き替え作品を鑑賞して、プロの翻訳スキルを参考にしつつ、自分ならどう翻訳するのか練習してみてもよいでしょう。

吹き替え翻訳の流れ

必要なスキルを確認したところで、吹き替え翻訳がどのような流れで行われていくか確認していきましょう。
現場によって詳細は異なりますが、一般的に吹き替え版の制作は下記のような流れで行われます。

  1. 映像素材のチェック
  2. ブレス切り・翻訳・台本作成
  3. 校正
  4. 音声収録・ミックス・調整

ここでは、おおまかな吹き替え翻訳の流れを確認していきましょう。

吹き替え素材チェック

吹き替え翻訳の最初のステップとして、映像素材のチェックから始まるケースが多いです。

映像や音声に不備がないか、ソース言語の台本に大きな抜けがないかチェックします。まれに、クライアントから台本が提供されない場合は、音声の文字起こしをするケースもあります。

素材のチェックは、翻訳準備の基本となるため土台となるため、しっかり確認しましょう。

ブレス切り・翻訳・台本作成

素材のチェック後は、翻訳作業に入ります。
吹き替え翻訳で必要な作業は次の3つです。

吹き替え翻訳は、ソース言語の台本と映像を丁寧に確認しながら翻訳を行います。
翻訳作業と台本作成は同時進行するのが一般的ですが、専門的な内容の場合はその分野に詳しい専門家による忠実訳を、翻訳家が吹き替え用に編集するケースもあります。

校正

台本が完成したら、ディレクターによる校正が行われます。
校正作業は吹き替え翻訳の仕上げとして非常に重要なステップのため、複数人で行うこともあります。

誤字脱字や表記の確認だけでなく、作品の魅力が生かされているか、視聴者が聞きやすいセリフになっているか、収録現場で使いやすい台本になっているかなど「作品」という視点で問題ないかチェックします。確認します。

音声収録・ミックス

声優による音声収録、BGMや効果音を合わせるミックス作業は、吹き替え作品を制作する最終工程です。

音声収録は、作品の完成度に直接関わるプロセスで、翻訳された台本を元に声優がアフレコします。
声優の技量にもよりますが、リップシンクがうまくいかない場合は、映像に合わせて台本の得セリフに修正が入るケースもあります。

また、音声収録後は吹き替え作品の仕上げとして、収録した音声とBGM、効果音をバランス良く調整するミックス作業が行われます。

未経験から吹き替え翻訳家を目指すには?

未経験から吹き替え翻訳家を目指すなら、翻訳スキルを磨きつつ、吹き替え翻訳の求人にチャレンジすることが重要です。

ここからは未経験から吹き替え翻訳家を目指す3つのステップについて解説します。

翻訳スクールで学ぶ

吹き替え翻訳家を目指す一歩として、翻訳スクールで学ぶ方法があります。
翻訳スクールは未経験の方でも専門的な知識やスキルを体系的に習得でき、効率的に翻訳スキルが身につけられるでしょう。

特に吹き替え翻訳の場合は、リップシンクやセリフの尺あわせなど、ほかの翻訳にはない作業があります。

翻訳スクールであれば、吹き替え翻訳家として活躍している講師から、現場に必要なノウハウも学べるかもしれません。

また、スクールによっては講座終了後に映像制作会社のトライアル紹介など、仕事につながるサポートが受けられる可能性もあります。

翻訳会社や制作会社で吹き替え翻訳の案件を探す

すでに翻訳スキルを身につけている方は、翻訳会社や映像の日本語版制作会社で吹き替え翻訳の案件がないかチェックしてみましょう。
翻訳会社や制作会社は、映画やドラマ、教育用途など、さまざまなニーズを抱えていることが多く、吹き替え翻訳に対応できる翻訳家を求めています。

翻訳会社や制作会社に翻訳家として登録するには、履歴書や翻訳実績の提出が求められるのが一般的です。
未経験の場合は、トライアルを受けて実力をアピールする必要があります。

まとめ

吹き替え翻訳は、字幕翻訳とは異なり、リップシンクやセリフの尺を考慮したしぜんな話し言葉でセリフを訳すスキルや、音声収録用の台本作成のスキルが求められます。

今後もさまざまな業界で動画コンテンツの需要が高まっているため、吹き替え翻訳家の需要は高まっていくでしょう。

これから吹き替え翻訳家を目指す方は、翻訳スクールなどで実践的に学びながら、吹き替え翻訳にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

翻訳家を目指すならフェロー・アカデミーへ!

仕事に繋がる翻訳スキルを学ぶなら、翻訳学校がおすすめです。

翻訳学校であれば専門知識と業界経験を持った講師による指導を受けることができ、学習中の疑問点をすぐに解決できます。
また最適化されたカリキュラムのため無駄がなく、効率的に学ぶことが可能です。

「フェロー・アカデミー」ではライフスタイルやレベルに合わせて講座を選ぶことができ、必要な知識やスキルの習得、仕事獲得までサポートが受けられます。

学校パンフレット(電子ブック)をPDFで閲覧できますので、最速で翻訳家を目指す方はぜひお気軽に資料請求ください。コース別の説明会、プラン選びのための学習カウンセリングも実施しています。

この記事の監修

フェローアカデミー理事長 室田陽子
フェローアカデミー理事長室田 陽子
学習院女子短期大学卒業後、株式会社サンリオに入社。4年間グリーティングカードの企画に携わる。
その後、翻訳者を志し退職、フェローアカデミーの「ベーシック3コース」を修了し、翻訳者として5年間活動した後、翻訳者ネットワーク「アメリア」立ち上げに参画、理事長/代表取締役に就任。

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