FEATURES
『ゴッドファーザー リターンズ』
その中で描かれることのなかった空白のストーリーを浮き彫りにしたのが、『ゴッドファーザー リターンズ』です。
作者のマーク・ワインガードナーは、本家の原作者マリオ・プーヅォの正当な後継者として認められた俊英だけあって、その筆致は折り紙つき。
すべての『ゴッドファーザー』ファン必読の本書について、訳者の加賀山卓朗さんにうかがいました。
- 【作品紹介】
- 偉大なるドン・ヴィトー亡き後、マイケルがファミリーの合法化を進める陰で、フレドは実弟マイケルへの不満をじょじょに募らせていた ―― 他人に言えない性癖をひた隠しにしながら、ラスヴェガスで密かに企まれた裏切りの青写真とは? そして、自分たちの一族がマフィアであることを知らないまま成長したソニーの遺児たちもまた、いつの間にかファミリーの血の絆に囚われていくのであった……。
ゴッドファーザー・サーガのファンにとっては、胸躍る読み物
本書は小説『ゴッドファーザー』の公式の続篇です。ただご存じのように、プーヅォ自身も深くかかわり、アカデミー脚本賞も獲得した映画がパートⅢ まで作られていて、映画では小説のあとの時代も描かれています。本書はその3本の映画にない空白の8年、パートⅠと Ⅱのあいだの4年+パート Ⅱと Ⅲ のあいだの4年を埋めるもので、ヴィトー・コルレオーネの三男マイケルがファミリーの首領となり、西海岸での基盤を固めるまでをおもに扱っています。
時代を反映して、J・F・ケネディやマリリン・モンローを髣髴させる人物が出てきたり、核実験やキューバが話に盛り込まれたりと、ファミリーの抗争以外の内容も非常に充実しています。
本作の魅力はなんといっても、あのマイケルや、トム・ヘイゲン、ピート・クレメンツァを新たな物語のなかに甦らせたことでしょう。ゴッドファーザー・サーガのファンにとっては夢のような話で、私もかなり気分が高揚しました。プロットにも彼らの活躍する場がきちんと設けられていて、作者はじつによく調べ、心憎い演出をしたものだと感心しました。
本作の訳出にあたっては、これだけ有名な登場人物のことばを訳す責任の重さを、終始感じていました。また、作者がじつに細かい配慮で過去のシリーズの登場人物やエピソードを使っているので、小説を読みなおし、映画をDVDで観なおし、それでも足りない部分は専門家の判断を仰いで、従来からのファンに失礼がないよう最大限努力しました。
訳者あとがきでもふれましたが、本書が胸躍る読み物になった理由として、ニック・ジェラーチというマイケルの最大の敵を生み出したこと(しかもコルレオーネ・ファミリーのなかに)があげられると思います。このジェラーチがある大きな事件に巻き込まれ、マイケルと反目するようになってから、物語の勢いがぐんと増します。『リターンズ』の続篇でも、ジェラーチが活躍してくれるのではないかと期待しています。
取材協力
加賀山卓朗さん
英日翻訳家。『あなたを愛してから』『夜に生きる』『ジョン・ル・カレ伝』『スパイたちの遺産』『レッド・ドラゴン』(早川書房)、『オリヴァー・ツイスト』(新潮社)、『モーリス』(光文社)、『11月に去りし者』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』(日本経済新聞出版社)など訳書多数。