FEATURES
『スクリーム』
本作の吹替翻訳を手がけた大嶋えいじさんにお話をうかがいました。
- 【作品紹介】
- レイクウッドの高校に通うエマの周囲でマスクをかぶった謎の人物による殺人事件が発生。犠牲者が増え、家族や友人の秘密が次々と明らかになる中、エマにも何者かの影がつきまとう。
製作:ジル・E・ブローテフォーゲル ほか
出演:ウィラ・フィッツジェラルド、ベックス・テイラー=クラウス ほか
若者のセリフ作りには日本のドラマも勉強になります
翻訳の際はサスペンスを台無しにしないよう心がけました
舞台となるレイクウッドの町ではかつて、外見上の病気が理由でいじめられ、やがて連続殺人犯となったブランドン・ジェームズという青年がいました。20年後の現在、また殺人事件が起こり、死んだはずのブランドンが戻ってきたと噂されます。
そして昔ブランドンが恋した相手が主人公エマの母親だったという事実は第1話でさっそく明かされます。「そんなに早く分かるの?」と思わせながらも、そこからどんどんサスペンスが増していくところはうまいですね。第1話ではニーナにいじめられたオードリーが犯人かと思わされますが……? 誰が真犯人なのか、最後の最後まで予想がつかなくてサスペンス要素満載です。翻訳の際は、原語で言っていないことを親切心で訳に入れてサスペンスが台無しに、なんてことのないよう、いつも以上に気をつけました。
メインの登場人物はいまどきのティーンで、SNSや動画投稿などがストーリーで重要な位置を占めるのは、現代風にうまくアレンジされていると思います。なんでもスマホでコントロールできる金持ちの家や、オンラインでPCをハッキングして脅しに使うなどの設定も巧みです。誰かがイタズラで投稿した動画が一晩のうちにバイラルになるといった展開もすごく現代的ですね。
若者言葉を訳すうえでは、この作品にかぎらず、高校で教員をやっていた頃の経験が役に立っているかもしれません。20代の友人や後輩、元教え子などの話し言葉を参考にしたりもします。それに日本のドラマも勉強になりますね。僕は男なので、特に主人公が若い女性の作品は得る物が多い気がしていて、ストーリーを楽しみつつも、セリフを参考にしようと常に一歩引いて聞いている自分がいます。
本作の翻訳はエピソードごとに、フェロー・アカデミー出身の大先輩である久布白仁司さんと交互に担当しました。スクリプトと映像は順次、準備できしだい僕と久布白さんに渡されたのですが、納期は2人同時だったので、翻訳したものより先のエピソードは英語版で見るしかありませんでした。ただ、久布白さん担当話の原稿が上がってきたらその段階で目を通し、先々の翻訳の参考にはさせていただいていました。言葉選びの統一などは、基本的に演出家さんがやってくださいました。
僕は吹替版の収録によく立ち合うのですが、吹替版の収録では、実際に役者(声優)さんが声をあててみてからセリフを変えることがあります。台本になる段階でどこまで作り込んでいくかは演出家さんのやり方にもよると思いますが、僕は現場で役者さんや演出家さん、音声さん、クライアントの担当者さんなどで意見を言い合って作るのが好きです。セリフ変更の際は、原意から離れすぎていないか、翻訳者が確認を求められます。もちろん、役者さんは前もって練習してこられるわけですから、現場での変更はないに越したことはありません。ただ実際にしゃべるのは役者さんですし、役のキャラをよく理解してくださっているので、役者さんの立場で意見を言っていただけるとすごく嬉しいです。また、僕が思っていたとおりの演技だったり、演出家さんがそのとおりに演技をつけてくれたりすると、「そう、それだよ!」と心の中で叫んでますね。
取材協力
大嶋えいじさん
単科・映像コースのゼミクラスを受講中。『空の上3メートル』『ASSASSIN アサシン』(字幕)、『96時間/レクイエム』『Zネーション』『ドラフト・デイ』(吹替)、ポール・マッカートニーのスタジオライブDVD『ライヴ・キス2012』(本編・特典映像字幕)など幅広い翻訳を手がける。