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『The Mr Porter Paperback: The Manual for a Stylish Life』

名取祥子さんが翻訳を手がけた『The Mr Porter Paperback: The Manual for a Stylish Life』をお届けします。
メンズECストアMR PORTERのコラムを、元英国版 『Esquire』誌の編集長ジェレミー・ラングミード氏が編集した本作。
日本版はセレクトショップBEAMSが完全監修という本作の翻訳について、訳者の名取さんにうかがいました。
ジェレミー・ラングミード 【著】<br>名取祥子【訳】<br>設楽洋 【監修】<br>トランスワールドジャパン
ジェレミー・ラングミード 【著】
名取祥子【訳】
設楽洋 【監修】
トランスワールドジャパン
【作品紹介】
画家デヴィッド・ホックニー、『トレインスポッティング』の作家アーヴィン・ウェルシュ、建築家ジョン・ポーソンから賞賛すべき32人の男たちのスタイル、DJやミュージシャンたちによるシーン別の選曲、伝説のバー創設者に教わるカクテルの作り方、住まいにふさわしいデザイン、定番アイテムのショールカラーカーディガンからポロシャツまでのルーツやエピソード、そして、義理の父親との付き合いからフェスでの振る舞い方までスマートな言動も含む「生き方」まで。MR PORTERが贈る現代のジェントルマンスタイル決定版。

自分なりの“ジェントルマン像”を思い描きながら訳出

―― まずは、本書について簡単な解説をお願いできますか?

 

本書は、ロンドン発メンズ ラグジュアリーファッションのオンラインショッピングサイト、MR PORTERの“エディトリアル”というコラム記事を集めたアンソロジー作品です。ラグジュアリーファッションと呼ぶにふさわしく、MR PORTERのオンラインショッピングサイトではプラダ、サンローラン、グッチなどの誰もが知るハイブランドから、今回監修を担当してくださった日本のセレクトショップBEAMSなど、幅広いブランドを展開しています。そんなMR PORTERならではの視点による着こなしのヒントからインテリア、腕時計、車などのセレクト、俳優や建築家など様々な著名人のインタビューなどが1冊に詰まっており、本国イギリスではすでに3作目まで出版されています(2019年現在)。今回はその1作目の和訳を担当させていただきました。

 

―― 本書の翻訳を依頼された経緯を教えてください。

 

翻訳者ネットワーク「アメリア」に自身のプロフィールを掲載していたところ、本書の出版元であるトランスワールド・ジャパンの編集者の方から直接お声がけいただきました。フリーランスになってからまだ数カ月も経っていなかったので、こんな未経験者の私になぜ? と編集者の方にお会いした際に伺ってしまいました。アパレル経験者ということがポイントだったそうです。直接お会いしてお話を伺ったあとで最初の1章の試訳を提出させていただき、幸いOKをいただけたので、最後まで担当させていただきました。

 

―― 翻訳作業についてもいくつか教えてください。

 

試訳に取り掛かる段階で編集者の方から「あまり上から目線過ぎないけれど、英国紳士っぽいちょっと気取った感じで訳してほしい」というリクエストがあったので、自分なりの“ジェントルマン像”を思い描きながら訳出しました。「おしゃれなお兄さん、世界中の洋服のことを知り尽くしたおじさん、ディテールにこだわる従者による指南書」という米ロサンゼルス・タイムズ紙の書評もイメージ作りを助けてくれました。

 

とくに腕時計やクラシックカーを扱った章は男性向けファッション誌に限らず、自動車雑誌やクラシックカーのファンサイトなどの専門媒体を参考にしました。訳出していてどうしてもカタカナだらけになってしまったのですが、アパレル業界で合計7年ほど働いた身として、ファッションの世界はなんとなくカタカナの多用が許されている雰囲気もあると感じていたので、そこはあまり気にせず突き進みました。

 

―― インタビュー部分を除くと、写真や展覧会のキャプションのような短い文章の集積になっていますね。こうしたものは短い文字数の中にたくさん情報が詰め込まれていたり、文の背景がわかりづらかったりといった傾向がありますが、そのあたりで難しさはあったでしょうか。

 

初めての書籍翻訳ということもあり、当時は訳文のボリュームが原文を大幅に超えてはいけない、という考えがまったくなく、振り返ってみると「そんなこともわからなかったなんて……」と恥ずかしい気持ちでいっぱいです。そのため、写真のキャプションはもちろん、訳文の文字数を大幅にオーバーしたり、逆に足りなかったりしたときにあとから文章を削ったり加えたりするのが大変でした。

 

―― 普段は実務翻訳のお仕事をされているそうですが、作業過程や時間枠、重視する部分などで、出版翻訳と実務翻訳とで違いを感じたことがあれば教えてください。

 

私が主に担当させていただいている実務翻訳は多くて原文5000ワード、たいていは1000ワード前後の短いテキストをその日中に訳出するのがほとんどです。20〜30字のように、どちらかというとコピーライティング的な発想が要求される短いテキストも日常的に発生します。なので、書籍といういまだかつて経験したことがないボリュームはかなりのチャレンジでした。もちろん、生活していかなければいけないので、実務の仕事と並行して本書を訳していたのですが、最後の1カ月はどうしても間に合わなくなり、実務の仕事はお休みをいただいて本書に専念させていただきました。今後、もし書籍を翻訳させていただく機会があるとしたら、実務とのバランスが課題だな、と痛感しました。

 

幸い、本書は様々な筆者による短めのコラムを集めたものなので、息切れしてしまったり、単調になってしまったりする心配はありませんでした。これがもし長編ノンフィクションやフィクションだったら、と考えると恐ろしいですね……。

 

実務と実用書の両方を経験させていただいて気づいたのですが、実務だからどう、出版だからどう、という違いはあまりないと思いました。実務のなかでもファッションは、直訳よりも意訳的な言い回しを好む分野だというのは大きいと思うのですが。ただ、書籍として成果物が残る喜びは何事にも代えがたいです。

 

―― 今後、挑戦してみたいジャンルの本があれば教えてください。

 

翻訳も大好きなのですが、それと同じくらい(下手したらそれ以上に!)好きなのがクラシックバレエです。一向に上達しないのですが7年くらいレッスンに通っていますし、好きなバレエ団の公演を観にいくこともあります。いつかはダンサーのインタビュー記事やバレエ関連の書籍を翻訳してみたいなと思いつつ、「アメリア」のプロフィールでめげずにバレエをアピールし続けています。

 

―― 最後に、学習中の方にメッセージをお願いいたします。

 

本書を翻訳していた当時はちょうどフェロー・アカデミーのベーシック3コースを修了し、中級の講座「フィクション」を受講していた時期でした。原稿の書き方、カタカナや漢字のバランス、ルビや傍点など書体に関するの指示の書き方など、すぐに実践できるアドバイスを現役翻訳家の先生からいただけたおかげでどれほど助けられたことか。授業で学んだことが実践として活用できた結果だと思っています。「直訳調になってる!」や「用語統一できてない!」など、訳出しながら先生たちの声が頭のなかで聞こえてきて、応援してもらっているような気分でした。訳書が発売されてからもフェロー・アカデミーの先生や事務局の皆様にもとても喜んでいただき、次もがんばりたい! という気持ちになりました。

 

授業で学ぶことはもちろん、身の回りのあらゆる文字要素が教材になると思います。映画のセリフや、周りの人の会話などで耳にしたことがあとになって訳文としてハマる瞬間があると、とても嬉しくなります。あと、訳した内容と身の回りのことって不思議とシンクロするんです。仕事とは関係のない本を読んでいたり、映画を観ていたりすると、訳した文章と似ている表現がでてきて「なるほど!」と思う瞬間が何度もありました。そんな言葉との出会いを大切にしながら、楽しく翻訳が続けられたら最高ですね。

取材協力

名取祥子さん

アパレル会社にて社内通訳・翻訳・PR業務に携わったあと、フェロー・アカデミーでの学習を経て現在はフリーランス翻訳者として活躍活躍中。

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