大岩剛さん
会社勤めのかたわら、2001年秋に入校。単科・映像翻訳コースを修了。2015年に会社を退職し、フリーランスの翻訳者として独立。高校時代から続けている趣味のバイオリンはアマチュア・オーケストラで活躍する腕前。
会社勤めのかたわら、2001年秋に入校。単科・映像翻訳コースを修了。2015年に会社を退職し、フリーランスの翻訳者として独立。高校時代から続けている趣味のバイオリンはアマチュア・オーケストラで活躍する腕前。
40歳からの挑戦。努力を重ねた日々
「会社勤めをしていた40歳のとき、ふと『このままでいいのか』と立ち止まりまして。昔から映画やドラマが好きだったので、翻訳を学んでみようと思いました」
フリーで活躍する映像翻訳者、大岩剛さんが15年前を振り返る。ガイド本『翻訳事典』でフェロー・アカデミーを知り、説明会に参加。学校の応対に好感を持ち、そのまま入校を決めた。
初級クラスで映像翻訳のルールなど基礎を学び、中級、上級クラスへ進級。しかし、その道のりは平坦ではなかった。毎度、課題を懸命にこなし意気揚々と授業に臨んでは、その自信をあっけなく打ち砕かれ、意気消沈して帰る日々。そんな当時、大きな刺激となったのがクラスメートの存在だ。中・上級クラスともなれば、実際に翻訳の仕事をしている人も多い。周囲の上手な訳に触れ、「いつか自分も」とただ一途に努力を重ねた。
忘れられないのは講師からの「翻訳者の仕事は視聴者に代わって辞書を引くことではない」という言葉。「とにかく『物語の流れを意識しろ』と。話がどう進み、どう集約するのか。字面ばかり追わないよう指導されました」。趣味でバイオリンを弾き、楽団に属する大岩さん。「指揮者にも『譜面づらのみ追うな』と言われます。どこか通じますね」と笑う。
仲間との交流から仕事の縁が広がる
講座で得たのは知識や技術だけではない。今につながる宝となっているのが、互いに切瑳琢磨した仲間とのネットワーク。初のトライアルも、まだ早いと消極的だったが、仲間に背中を押されて申し込み、デビュー作につながった。
また、クラスの懇親会で配給会社の人と出会ったことをきっかけに、自身の代表作でもある『ARROW/アロー<セカンド・シーズン>』の字幕翻訳を手がけることにもなった。 先輩修了生との交流からも、ナショナルジオグラフィックなどのドキュメンタリー番組をはじめ、さまざまな仕事を得てきた。
「本当に横のつながりに助けられています。思えば営業はしたことがなく、これまでの仕事すべてが誰かの紹介ですね」
2015年の昨年、満を持して、長年勤務した会社を辞めて独立。これまで下訳の仕事では字幕と吹替がほぼ半々だったが、現在はドキュメンタリーが多く、吹替やボイスオーバーが大半を占める。
「吹替のできる人が少ないのか、よく仕事が来ます。当初、吹替は不向きかなと思っていましたが、やってみたら面白くて。ドキュメンタリーも調べものが好きな自分には合っていますね」
今後の目標は翻訳の総合力を高めていくこと。課題は速さと正確さ。周囲の翻訳者と比べても、まだまだ英語力の向上や文化理解が必要だと感じている。
「送られてくるスクリプトも不完全なことが多く、自分で聴き取らねばなりません。吹替では周囲の会話など背景の音は元来スクリプトにも書かれていませんから」 ドラマもドキュメンタリーもオールマイティの大岩さんだが、実は大のホラーファンでもある。
「ホラー作品やりたいですね。いつか『ホラーなら大岩』と言われるようになりたいです」
『翻訳事典2017年度版』(アルク発行)より転載