大島陸さん
高校1年から大学4年までをアメリカで過ごす。アフリカでNGO職員として国際協力活動に従事し、2013年に帰国。2014年度カレッジコースに入学し、修了直後からゲーム会社にインハウス翻訳者として勤務している。
つねに訳文を比較できる環境は貴重だった
アメリカの大学を出たあと、医療系NGOでボランティアをしにアフリカに渡りました。それがきっかけとなって仲間とNGOを立ち上げ、現地などで8年間活動したのち、2013年に退職。キャリアチェンジするため、「自分の語学力と大好きなゲームと映画を組み合わせたら何ができるだろう」と考えたとき、パッと「翻訳」が思い浮かびました。基礎からしっかり学べる講座を探していたところ、フェローのカレッジコースを発見。説明会に参加したとき「ゲーム翻訳には、映像・実務・出版のすべての要素が必要」とアドバイスしていただき、受講を決めました。コースでゲーム翻訳自体を学べる点にも大きな魅力を感じました。
授業で、自分の訳文と先生やクラスメートの訳文とをつねに比較できる環境は、いま思えばとても貴重だったと思います。「原文を丁寧に読みとり、自然な表現・流れの日本語にする」という意識づけができたこと、「時間をかけてリサーチし、わかったことを訳文に生かす」という手順を習慣化できたことも大きな収穫でした。
先生との出会いが仕事につながる転機に
先生方にはたくさんのことを教わりましたが、最も印象に残っているのは「出版基礎」の布施由紀子先生の言葉です。コースの途中で骨折してしばらく授業を欠席したのですが、復帰したら先生が開口一番、「入院生活、良かったですね」とおっしゃいました。「翻訳はどんな経験も無駄にならないから」と。予想外の言葉にびっくりすると同時に、翻訳者になるための資格を1つ得たような気がして、心が軽くなりました(笑)。
またゲーム翻訳の授業では、基本的なノウハウから仕事の流れ、業界事情までを学ぶことができました。プロとして第一線で活躍している先生とお話しする機会にも恵まれ、進路相談に乗っていただけたのも嬉しかったですね。
先生に教えてもらったゲーム翻訳のイベントに参加したことをきっかけに、フリーランスの翻訳者さんたちとのつながりが増えました。いまの勤め先であるゲーム会社が翻訳者を募集していると教えてくれたのも、イベントで知り合った翻訳者の方です。その意味では先生と出会えたことが、僕にとっての最大の転機だったのかもしれません。
幅広く学んだ経験をフルに発揮
2015年3月にカレッジコースを修了し、4月からインハウス翻訳者としてゲーム会社に勤務しています。業務メールや社内資料などの英訳と和訳、開発者インタビューの日本語字幕が中心で、ときどきゲームそのものの翻訳をやらせていただくことも。楽しく、やりがいを感じる毎日です。
用途や文章スタイル、読み手の異なるものを翻訳するので、カレッジコースで幅広く学んだスキルやノウハウが存分に活きています。字幕翻訳については、「1秒4文字」「句読点は打たない」といった基本ルールなどを学んできたので、新入りの僕でも、それらの知識がさっそく役に立つことも多いです。
また子ども向けのゲームを訳すときには、「児童文芸」での学習経験も役に立っています。頭を思いきり柔軟にして子どもに分かりやすい表現を考えるアプローチは、ゲームにも通じると思っています。
翻訳者としてゲームの魅力を伝えたい
いまはインハウスで仕事をしているので、ゲーム会社内でどのような業務が行われているのかを知ることができます。そこがフリーランスと決定的に違うところだと思うので、ゲーム・ローカライズの全体像を熟知した総合力の高い翻訳者になれるよう、高い意識をもって仕事に臨んでいます。
もともとあった映像翻訳への興味も捨てがたいですが、ゲームの世界は映画と比べてまだまだ歴史が浅く、その素晴らしさや可能性は十分に社会に伝わっていないように感じます。そういう現状を見たとき、小学生のころからゲームを熱心にプレイしてきた僕のような人間が、ゲームの魅力を伝える役割を果たすべきだろうと。翻訳者として、少しでも貢献できたらと考えています。
僕だけでなく、カレッジコース時代のクラスメートたちはそれぞれ異なる翻訳の現場に新しい一歩を踏み出しています。これから同窓会を開けば、そのたびに別々のキャリアを積んだクラスメートと情報交換ができるので楽しみですね。