遠藤智子さん
2006年度カレッジコース修了後、翻訳会社でチェッカーをつとめ2010年に独立。その後出産を経て、訳書『さよなら、ねずみちゃん』を刊行。また英語字幕を担当したショートアニメがオタワ国際アニメ祭で準グランプリに輝く。
絵本翻訳の仕事をするのが夢でしたが、自分がどの分野に合っているかわからなかったので、実務・出版・映像の3分野を基礎から学べるカレッジコースに入学しました。修了後はまず翻訳会社で社内チェッカーとして勤務を開始。その4年後に退社し、フリーランスの翻訳者として活動を始めました。
独立当初は論文の英訳やマーケティングリサーチの抄訳などをしていました。念願の絵本翻訳を手がけることになったきっかけは、ある絵本の翻訳者の座をかけたアメリアのスペシャルコンテストに応募したことです。そのときは残念ながら受賞を逃してしまいましたが、後日その出版社の編集者さんから連絡があり、シリーズでもう2冊出すので片方を訳してみないかとお声をかけていただきました。子どものトラウマ治療をテーマにしたシリーズで、私が担当したのは初めてペットの死に直面した子がそれをどう乗り越えていくかをあたたかく描いた作品でした。ちょうど自分の小さい娘が主人公と同じ年頃で、娘に読み聞かせて反応を確かめながら訳したのもよい思い出です。さらに校正の段階では「うちの娘だったら大切なペットが死んでしまったときにどんなしゃべり方をするだろう」と想像して語尾を大幅に変更したところ、編集者さんに読みやすくなったと言っていただけてほっとしました。
私はカレッジコースで出版翻訳を学んでいたおかげで絵本翻訳の夢が叶いました。対象年齢の設定、漢字をどの程度まで使うかの判断、絵をよく見て訳すことの大切さなど、児童文芸の科目で学んだことは実際の仕事にとても役に立ちました。また映像翻訳も学習していたので知人から英語字幕も依頼されることもあり、手がけたショートアニメが国際アニメ祭で賞を受賞しました。もちろん実務翻訳の学習経験も、その後の翻訳会社の仕事や独立後の仕事に生きています。このようにコースでいろいろな分野の基礎を学んだことが今、仕事の幅を広げてくれています。
翻訳の仕事には、原文を深く理解できる喜びと、原文が読めない人の助けになれる嬉しさがあります。原文をざっと読んで分かったつもりでも、いざ訳すとなるとなぜその言い方をしているのか、なぜその単語が使われているのか、といったことにまで思いを馳せる必要が出てきます。そうして悩んでいると、ふっと書き手の気持ちに寄り添えるというか、行間に隠れているものが分かる瞬間があって、そんなときにポンとはまる訳が浮かぶと、翻訳って楽しいなと思います。それでいてほかの誰かのお役にも立てるのですから、ありがたいことです。